数多くの司法書士事務所 もし、歩いていて「看板」にぶつかれば、まず、それは司法書士事務所のものではないだろうか、と考えたくなるような、すごい数の司法書士事務所である。福岡市舞鶴地区にある福岡法務局の周辺を歩いてみて、その司法書士の事務所の数の多さにはびっくりした。福岡県下に、ざっと700人の司法書士がいて、その中の200人が、この狭い舞鶴周辺に事務所を構えているというから、その密集ぶりが分かってもらえるというものだろう。ところで、目指す、池田信一郎さんの事務所もこの一角、それも福岡法務局が目の前という便利なところにあった。
名刺交換から営業に
福岡市で開催される異業種交流会に出て、名刺を交換した人たちを中心に、毎朝、池田信一郎さんは営業に出かける。
このことを聞いて、司法書士の方々にも“営業”があるのだろうか?と首をひねった。
「まだ、僕は新米です。人との接触が即仕事に結びつきますから、まず名刺を交換した人たちをお尋ねすることから始めないと、先へ進めないのです。独立する前に、いろいろな先輩から、3、4年は食べていけないよ、と聞かされていましたが、それは人とのつながりが薄いからだろうと考えます。」
まだ、初々しさが全身に漂う池田信一郎さんは、前髪姿で、剣の修行に出た若武者という感じがする。
「司法書士といっても、大勢の方はどんな仕事をやっているのか、よくご存知の方は少ないんです。それで、営業というより、僕らの仕事を理解していただくために啓蒙をかねて歩き回っていると言うのが現実でしょう」と、池田信一郎さんは、打ち込んでいたパソコンの手を休めて、顔をこちらに向けてくれた。
まだ、今年4月に、先輩の事務所に独立した自分の事務所を開いたばかりの新人の司法書士の先生は、少し顔を赤らめるようにはにかんだ。
庶民のよろず相談所
「先輩の言葉から厳しいことは覚悟のうえでしたが、確かに厳しい世界です。先輩たちのところには、人がわざわざ相談にやってきてくれますが、新人の僕のところへは誰も尋ねてきてくれない。それで、自ら出て行ってお話をしているうちに、どれが仕事になるのかが分かってくるのです。」
だから、池田信一郎さんは、朝から事務所を出て、いろいろな人を訪ね、話をしているうちに、仕事の広がりを見つけていくのである。
いま、福岡県司法書士会は、無料電話相談を受け付けている。
例えば、クレジット・サラ金問題、それに一般相談などを、「困ったことがあれば、何でも相談下さい」と呼びかけているが、一般の人たちは、どんなことについて相談すればいいのか迷ってしまう。
「僕らの仕事は、法務局、裁判所、検察庁などに提出する書類を作成することが基本ですが、サラ金や、クレジット問題など、不動産などの法律相談なども受け付けます。」と池田さん。
バブルはじけて、司法書士へ
池田さんは、北九州市若松区の出身で、福岡大学経済学部へ進んだ。
卒業したら何か独立した仕事を持てないかと考え、九州不動産専門学院へ通いながら宅地建物取引主任者の資格を狙った。
「当時はバブルの最中で、大学を出たら不動産関連の仕事を狙ってみようと考えて、大学とは別に不動産専門学院で勉強していました。資格も獲得したのはいいけれど、大学を出た途端にバブルがはじけ、不動産関連の仕事は夢となってしまいました。そこで、どうするか考え込みました。」
卒業と同時に就職という道もあるにはあったが、池田さんは何か他に独立してやれる仕事はないかと周囲を見回していた。
「ここで幸いしたことに、不動産専門学院時代に司法講座も受けていた関係で、司法書士のことが頭をよぎったのです。これなら、希望通りに就職せずに自分で自分の仕事ができると考えました。」
すぐに勉強にかかったが、なにしろ大学の学部は経済。法律はほとんどゼロからの出発のようなもの。
「僕にとっては難しい受験でした。結局は資格を取るまでに5年かかりましたから。」
つぎは結婚か!
池田さんは、まだ独身である。とはいっても、どうやら恋人は存在しているようである。質問したら「???」と直接には答えてもらえなかったが、笑顔が答えていてくれた。
「まだ結婚しても奥さんを食べさせることができませんから。でも、そろそろですね。」と池田さんは笑顔を見せた。
趣味は音楽と映画。しかし残念なことに、今はどちらも思うように楽しむことができない。
「すべてにおいて仕事優先なので仕方ありませんが、それでも時間が許せば、やはり映画を観ます。この仕事を始めて、しみじみやり甲斐のある仕事だと思いますね。」
さて、間もなくよき伴侶を得て、仕事にも余裕が出て、池田信一郎さんも映画や音楽をゆっくりと楽しむことができるようになるに違いない。
※九州不動産専門学院グループ同窓会、九栄会の会員でもある。
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